田中

紫蘇の一件

 今年の梅雨以上に梅雨らしい空気のなかに、一抹の夏の気配が混ざる日が出てきた。暑くなればなるほど、年々さっぱりとした食べ物に手が伸びるようになってきて、その筆頭格にいるのが私の場合、冷や奴。白葱を刻んで鰹節、どちらもたっぷり乗せる。ミョウガもいい。どちらかというと薬味を食べるために豆腐が存在しているというくらい、これでもかとたくさん乗せる。わしわしと薬味のかたまりを咀嚼しているとやがてそれにも飽きて、そこに紫蘇を加えたくなった。
 スーパーで売っている紫蘇はたいてい10枚くらいをひと束に売られている。10枚は多い。全部消費する前にだめにしてしまうのではないかと懸念がよぎる。ちょっとでいいんだけどな、ちょっとで、と思うとついスルーして縁遠くなってしまう。
 そんな折、実家の隣の佐藤さんのところで紫蘇が大量に自生していたのを思い出し、プランターに種を蒔けば芽が出てくるのではあるまいか、と思い至った。自家栽培なら「ちょっと」が実現できる。そう思って種を買ってきて、いそいそと種蒔きしたのが昨年のことだった。
 ところが、水遣りが上手くできず、枯らしてしまった。言い訳がてら付け加えておくと、昨年は日差しが鋭く、やはり紫蘇を枯らしたという知人の嘆きを、一応耳にしてはいた。馴れないことをしたからかな、とひとしきり肩を落とした後は、すっかり紫蘇のことは忘れていた。
 時は流れて約1年、面接室の外を眺めていた同僚から「これ、紫蘇だよね」と指摘を受ける(そう、自宅ではなくオフィスのベランダでの出来事なのである)。なんということだろう、紫蘇は人知れず復活していた。今年の雨量も幸いしたのかもしれない。
 というわけで、念願叶い、豆腐にぱらっと細く刻んだ紫蘇を乗せる。やはり薬味ばかりを頬張っていると、人間が何をせずとも生まれてきてくれる紫蘇の力強い生命力に思いを馳せずにはいられないし、面接室のすぐ外でそんなことが起きているというのも何というか縁起がいいし、ありがたいなあ、と紫蘇に対して頭を垂れるわけです。
(田中)

日本家族療法学会第36回大会に参加しました

先週、北星学園大学にて開催された日本家族療法学会の年次大会に参加し、スーパーヴァイザー研修を受けてきました。ベテランの先生方とお喋りをしていると、不思議なもので、文献を読むのとはまた違うかたちで視野が開ける感覚を覚えます。毎回のことながら、貴重な機会です。

(田中)

第38回日本心理臨床学会の自主シンポジウムに登壇しました

前回の投稿から随分間が空いてしまいました。申し訳ございません。

画像に含まれている可能性があるもの:1人、テーブル、室内

現在、心理臨床関係では日本最大の学会である日本心理臨床学会の第38回大会が横浜で開催されております。木曜日に自主シンポジウムでシンポジストを務めて参りました。不登校・ひきこもり臨床におけるブリーフセラピーの実践そして可能性についてディスカッションをいたしました。

(田中)

10年目のご挨拶

 久しぶりのブログ更新です。大変ご無沙汰をしてしまいました。
 さて、弊オフィスは2008年4月の開設から数えてちょうど10年になりました。色々なことがございましたが、今日まで運営を続けることができました。改めまして、皆様のご利用、ご協力に御礼申し上げます。ご利用者様お一人おひとりにフィットする臨床実践を目指して、カウンセリングにおける質の向上を大切にしようと努力してきたつもりですが、まだまだ道半ばです。この間、公認心理師法が成立し、日本における心理的支援のあり方は転換の時期を迎えようとしております。当オフィスでは、これからもエヴィデンス・ベースト・プラクティス(科学的に根拠のある臨床実践)を下地としつつ、先端的な研究動向に目配せをしながら、できるだけ効率的な支援ができるよう前向きに取り組んでいきたいと、気持ちを新たにしているところです。今後とも何卒よろしくお願いいたします。
                                    代表 田中 究

夏の学会ワークショップ

最高気温が30度を越えることはあっても、気候の肌ざわりはすっかり秋のそれですね。今年は7月くらいがとても夏らしい天候だった気がします。

丁度その頃から、7月から8月にかけて、2つの学会で大会ワークショップの講師をお任せいただきました。ひとつは日本ブリーフサイコセラピー学会で、「システムズアプローチ〈完全理解〉」と銘打っての5時間の研修。院生からベテランの方まで、20数名の方にご参加いただきました。

大会ワークショップを一人で担当するのは実は初めてのことで、5時間というのは長いようで短い。その間にアプローチの来歴に触れ、エッセンスを分かりやすく伝え、体験的にワークも入れて、なんてやっていると5時間はあっという間。少し盛り込みすぎたきらいはありますが、無事お役目を果たせたかなと思っております。

加えて、今回は特に「対人援助におけるシステムという視点」について、研修の準備プロセスでグレゴリー・ベイトソンの論文を読み直すことで、私自身新しく気づいたことが多々ありました。ベイトソンのエコロジー概念や数々のアフォリズムは謎めいてみえるので、どうしても雰囲気だけを味わうにとどまりがちです。そのあたりが幾つかクリアになったので、今後のワークショップや研修、授業の中に反映させていきたいと思っております。

もうひとつは、日本家族研究・家族療法学会つくば大会のワークショップで、「認定スーパーヴァイザー企画 スーパーヴィジョンの実際」。スーパーヴァイジーとスーパーヴァイザーがリフレクションを通じて日常のスーパーヴィジョンでは言えないことを言ってみましょう、という企画。今年度から認定スーパーヴァイザーを拝命している関係で講師の一人として参加することになり、期せずして先輩スーパーヴァイザーの謦咳に触れることに。そのコメントの深遠さたるや。特に福山和女先生のご意見は、たいへん印象に残った次第。感嘆致しました。

というように、2つのワークショップは講師にとって、とても得るものが多かったのですが、例によって観光はほぼなし。。場所は松山と筑波だったけど、駅と会場を往復したのみで、唯一、道後温泉は本館の前までは行けた。温泉に入る時間はなかったものの、初めてその雄姿を目にすることができたので、まあ良しとしますか。

(田中)

雨粒が呼び覚ますもの

梅雨が明けたそうです。横浜は今年、あまり雨が降らなかったですね。
前記事の続きというわけではないのですが、自転車の話。

最近は自転車に乗る機会が以前より増え、そうすると雨対策はちょっとした懸案事項になる。大人になると、雨が降ったら傘を差す、というのがなんといっても簡便な方法で、実際、傘以外の雨具は持っていなかったし、傘が差せないほどの降水時でも傘にしがみつくしかなかった。

ところが、自転車に乗る時にはそういうわけにはいかないので、レインウェアを求めることになる。「雨が降って着るのが待ち遠しくなるくらい、お気に入りのウェアを探すといいですよ」ですって。店員さんはうまいことを言いますね。なるほど。

さて、少し前のこと。待望の雨の日がやってはきたが、溜息をもらし、しぶしぶ店員さんおすすめのウェアを着る(なかなか店員さんのような境地には達することができない)。そうして自転車を走らせていると、不思議な感覚を覚えた。なんというのか、子どもの時の感覚が甦ってきた感じ。これまで傘によって遮られていた、身体を雨粒が直接打ちつける、久しぶりの感触のせいでしょうか。傘を持ち合わせていなかったとか、近くに傘を売っている店がなかったとか、致し方なく雨を受ける場合もありますが、そういう時はずぶ濡れの不快な感触が先立つのでまた別な経験になる。

自転車を走らせながら、何かを思い出せそうで思い出すことはできずに目的地に到着。状態依存記憶という概念があるけれども、記憶を喚起するところまではいかなくて、「久しぶりの感覚」止まりだった。やはりといいますか、普段使わない感覚のモダリティを用いると意外な経験ができるものですね(感覚のモダリティというのはカウンセリングではとても大事なトピックです)。

次の雨が降った時、またこの感覚に遭遇できるだろうか。それを楽しみにすることができるくらいになると、店員さん並に一丁前といえそうなのですが。

日本ブリーフサイコセラピー学会松山大会ワークショップ

大会ワークショップ講師を務めます

今年は松山大会

日本ブリーフサイコセラピー学会の年次大会が2017年度は7月29日〜30日に行われます。今年は第27回松山大会、初の四国開催です。http://matsuyama2017.jabp.jp

システムズアプローチ〈完全理解〉

この学会では大会前日に大会ワークショップが開かれるのが常となっております。この度、8つのワークショップのうちのひとつ、「システムズアプローチ〈完全理解〉」で田中が講師を務めます。大会ワークショップを単独で行うのは初めてのこと。5時間というのは研修としては長いようで短くもあり、ワクワクしながら内容を考えているところです。

事前申込締切が近づいています

事前申込の締切は6月9日(金)です。締切を過ぎてお申し込みになると2,000円ほど参加費が高くなりますので、ご参加をご検討中の方は予約参加がおすすめです。詳しくはこちらのページからどうぞ。http://matsuyama2017.jabp.jp/form.html

以下、大会ホームページからワークショップの概要を転記します。

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システムズ・アプローチはブリーフセラピーを支える大きな柱のひとつです。ジョイニング、リフレーミング、コミュニケーション・パターン、どれもブリーフセラピーを実践する上で欠かせない要素となっています。システムズ・アプローチというと家族面接をイメージされる方は少なくないでしょう。しかし、家族面接だけでなく、個人面接や会議にも、はてはちょっとした立ち話や世間話にまで有効性を発揮します。それは、システムズアプローチが特定の方法を指すのではなく「ものの見方」に他ならないからです。

とは申しましても、本ワークショップは学校臨床をテーマとした、初学者向けの内容となっております。イメージとしてはデパ地下の試食コーナー。変わった味かもしれないけ れど、美味しいかもしれないし、エクササイズをまじえながら、基本の基本に少しずつ触れていきます。学校臨床以外の分野で業務に従事している方も、もちろん大歓迎です。

「明日から使える!」技法をたくさん学ぶことはとても大事なことです。しかし、それが使いこなせるかどうかは、それぞれの支援者にかかっています。ですから、システムズアプローチのものの見方が支援者の柔軟性向上に寄与する→諸技法の活用可能性が高まる→よりよい支援につながる、そんなワークショップを目指せるといいな、と思っています。

複数の関係者をシステムとして捉える視点から、既存のシステム観を転覆するオートポイエーシスまで、システムズアプローチは固定化されている経験をシャッフルしてくれることでしょう。

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関内カウンセリングオフィスのブログを開設致しました

関内カウンセリングオフィスの代表を務めております田中です。

この度、関内カウンセリングオフィス・スタッフによるブログを開設致しました。カウンセリングや心理療法について、研修やトレーニングの情報、また日々の所感など、書いてみたいと思っております。どうぞよろしくお願い致します。